民泊は不特定多数の人が利用、宿泊するという性質上、消防設備をきちんと設置しないと許可を取ることができません。自治体に許可申請書を持っていく際に、必ず消防署の検査結果を一緒に提出することになります。
とはいえ、消防設備といっても一般の方にはいまいちイメージが付きずらいかもしれません。消防設備の種類は様々で、大型商業施設や工場に設置されているスプリンクラーのような大掛かりなものから、飲食店に置いてある消火器や消火用のバケツまで全て消防設備です。
消防署は管内にあるそれぞれの建物について、何の用途に使っているかを判定しています。そして用途ごとに必要な消防設備の設置基準を設けています。例えば、飲食店は厨房で火を使うことから消火器の設置が必須とされていて、火災報知設備も必要です。
消防設備の設置工事費は場合によって高額になります。特に自動火災報知設備の設置が必要になると、感知器と受信機を有線接続するために壁面と天井の工事が必要になったりします。
消防設備の設置は、民泊営業を始める上で大きなハードルとなっていました。なにせ民泊はもともと一般住宅として使っていた建物を改装して宿泊施設として使うケースが多いため、ほとんどの場合で消防設備なんて設置されていないからです。そんな状況を改善するべく、令和6年の7月に消防法の改正が行われました。この改正を受けて、今まで高額な工事費を必要としていた自動火災報知設備について、配線工事を必要としない安価な設備を導入することが可能になりました。
そこで今回は一軒家で民泊を営業するケースを例にして、民泊と消防設備の関係についてお話ししようと思います。
①消防設備が必要な民泊・必要ない民泊(一軒家の例)
◆お客さんが宿泊中に家主が不在となる場合は消防設備の設置義務あり
◆お客さんが宿泊中に家主が不在とならない場合は、宿泊室の床面積合計が50㎡を超えたら消防設備の設置義務あり
民泊の消防設備については、家主が不在となるかどうかで設置基準が変わります。家主が不在となる場合、万一火災等の非常事態が発生しても対応する人が居ないので、ホテルや旅館と同じ設置基準となります。そのため消防設備の設置は避けられません。一方で、お客さんが宿泊中も家主が在宅していて、宿泊室の床面積が50㎡以下なら消防設備を設置する必要はありません。
②民泊に求められる消防設備
◆自動火災報知設備
天井に熱感知器や煙感知器を設置し、万が一火災が発生した場合は警報を鳴らす装置です。法改正によって従来型の有線接続されたモデルだけでなく、無線連動型の自動火災報知機が設置できるようになりました。無線連動型のモデルの正式名称は「特定小規模施設用自動火災報知設備」といい、長いので「特小」と省略して呼ばれています。私は消防設備士でもあるのでよく消防署に行って手続きをするのですが、今回の法改正で「特小なら建物オーナーの負担がグッと下がる。今まで自火報の設置が進まず違法状態だった建物も改善が進みそうだ」と期待している消防署の声を聞いています。画像は従来型の有線接続された熱感知器(差動式)です。
◆誘導灯及び誘導標識
誘導灯は人が走っているマークでおなじみの、よく建物の出入り口に設置される装置のことです。LEDライトによって発光し、非常時に停電しても内蔵バッテリーで発光し続けることができます。誘導標識はLEDライトの替わりに蓄光塗料を使って発光する標識で、電源を用いないため安価ですが、建物の用途判定によって誘導灯の設置が義務付けられている場合、誘導標識を使うことはできません。
◆消火器具
よく廊下に置いてある赤い消火器です。業務用と一般家庭用がありますので、業務用を設置するようにしましょう。消火薬剤の材質によって特徴が異なりますが、一般的には「蓄圧式粉末消火器」と呼ばれるものが設置されます。必要な数、設置する場所などが消防法で決まっているので、床面積や部屋からの距離などを計算して設置しなければなりません。簡単に見えて意外と設置に手間がかかります。
③消防設備の設置工事は消防設備士資格が必要
消防設備の設置工事は消防設備士資格を持った専門の業者しかできません。また設置工事については着工届書、設置届出書の提出が求められるほか、試験結果表、設置図面、配線図面、断面図、強度計算書などが必要になります。消火器については着工届の提出は必要ないですが、設置した消防設備士の名前が入った設置届出書を提出しなければなりません。私もよく書いています。
◆特定小規模施設用自動火災報知設備は消防設備士資格が不要
特小の自動火災報知機は設置工事に資格が必要ありません。電源はバッテリーから供給されるため配線工事が不要で、設置工事の費用がグッと下がりました。ただ設置場所の算定や警戒区域の指定などは専門知識が無ければ難しいですので、自分で取り付けるよりは専門業者に依頼する方が楽かもしれません。設置位置・設置個数については消防署の検査を受けるので、基準に合っていないと改修を指示されてしまいます。また建物の間取りによっては必要な感知器の数が多くなり、連動個数が多くなってしまうことがあります。その場合は中継器の設置が必要になりますが、中継器の設置は有資格者しか認められてません。
④まとめ
◆民泊は消防設備の設置義務がある
◆家主が在宅するなら床面積によっては消防設備が不要になる
◆必要な消防設備は主に3種類
◆特定小規模施設用自動火災報知設備なら設置コストを抑えられる
今回は民泊に必要な消防設備を簡単にご紹介しました。実際の申請では、消防と相談しながら一つずつ細かな設置基準について確認していく必要があります。また特小自火報が認められるにはいくつか条件がありますので、のちほど特小自火報をテーマに記事を書こうと思います。
弊所は消防設備の専門業者と提携しておりますので、民泊の申請だけでなく消防との事前協議、消防設備の施工、必要となる図面の作成・提出まで一貫して承っております。また外国籍の方が民泊経営する場合、在留資格の変更が必要になるケースもありますので、あわせてご相談ください。