遺言書には主に自筆証書遺言と公正証書遺言があることは以前にご紹介しました。制度上は秘密証書遺言というものがありますが、作成されるケースは相当に少ないので私たちもほとんど見ることがありません。
公正証書遺言は公証役場で作成されますので、証拠能力が高く内容のチェックも受けられるので安心できますが、その分どうしても費用と手間がかかってきます。自筆証書遺言なら自宅で気軽に、そして安価に作成することができるメリットがあります。
そこで今回は自筆証書遺言に関して、もう少し踏み込んだ内容をお話ししていこうと思います。
①自筆証書遺言とは
自筆証書遺言は遺言者本人が遺言書の全文を自筆で書いて作成する遺言書です。「全文」とされていますので、本文はもちろん日付、氏名も自筆で書く必要があります。
縦書き・横書きの指定はありません。また用紙も自由に選択することができますし、印鑑は三文判でも構いません。ですので極端な話、100円ショップで便箋&ボールペン&三文判を買ってくれば作成可能です。総費用はおどろきの330円(税込み)ですから、公正証書遺言に比べると断然安上がりです。公正証書遺言の場合作成手数料がかかりますので2~5万円は必要になります。もし行政書士や弁護士に作成を依頼した場合はそこに依頼料がかかってきます。
とにかくコストを抑えたい場合、自筆証書遺言なら最安値で作成することができます。自筆で作成する最大のメリットですね。
②自筆証書遺言の注意点
◆自筆で書くという負担
70代の方などであれば特に問題にはなりませんが、遺言者が90代になってくると自筆で書くこと自体が大きな負担になってきます。A4で1枚くらいなら何とか書けるけれど、2枚3枚は大変な作業です。
法改正によって財産目録についてはワープロ、パソコンなどでの作成が許されるようになりましたが、本文については全て自筆でなければなりません。
◆家庭裁判所に検認の申し立てが必要
遺言書を見つけたら、その場で開封してはいけません。まずは家庭裁判所に検認の申し立てが必要です。
申立人は相続人か遺言書の保管者となります。
必要書類が多いうえに、検認済み証明書を請求するまで1ヶ月ほど時間がかかります。
・申し立てに必要な書類
①遺言書の検認申立書
②被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本
③申立人及び相続人全員の戸籍謄本
④遺言書が封印されていない場合には、遺言書のコピー
必要書類をそろえて申し立てをすると、家庭裁判所が検認を行う日時を通知してきます。
申立人以外の相続人については、出席するかどうかは各自の判断に委ねられているため任意です。
検認は平日の昼間に行われるので、出席が難しい場合は欠席でもかまいません。
申立人と相続人の立会いの下で遺言書が開封され、検認が行われます。
検認が終わったら検認済み証明書を請求しましょう。この後の不動産名義変更や、銀行預貯金の払戻・解約の手続きで必要になります。
検認をしないで遺言を執行すると、5万円の過料に処されることがあるので必ず検認しましょう。検認を受けずに開封してしまっても遺言書は無効になりませんし、開封した相続人が相続の資格を失うことはありません。ですが、下手に改ざんや廃棄を目論むと相続の資格を失うことがありますので、まずは裁判所に検認の手続きをとりましょう。
◆遺言の方式に不備があると無効
日時が書いていなかったり、印鑑が押印されていない場合は無効となってしまいます。また1枚の遺言書にワープロやパソコンで作った財産目録をまとめて記入すると無効です。あくまで本文は手書きして、財産目録は別紙に分けて作成しましょう。
日付については正確に令和〇年〇月〇日と記入してください。〇月吉日といった不正確な日付では無効になってしまいます。
③訂正方法が厳密に指定されている
自筆証書遺言では書き加えたり訂正する方法が民法で指定されています。
民法968条3項 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない |
①文字を加える場合
・追加個所に吹き出しなどを記入して追加する文字を記入する
・追加した箇所に訂正印を押す
・遺言書の隅っこや末尾に「第〇行中〇字加入 遺言者の氏名」を記入する
②文字を削除する場合
・削除したい文字に2重線を引く
・その付近に訂正印を押す
・遺言書の隅っこや末尾に「第〇行中〇字削除 遺言者の氏名」を記入する
※太すぎる訂正線はNGです。元々書いてあった文字が読めるように2重線を引きます。
③文字を訂正する場合
・削除したい文字に2重線を引き、その付近に吹き出しなどを記入して変更後の文字を記入する
・その付近に訂正印を押す
・遺言書の隅っこや末尾に「第〇行中〇字削除〇字加入 遺言者の氏名」を記入する
※訂正方法が間違っている訂正は無効となります。遺言書自体が無効になるわけではありません。訂正箇所が多い場合は、手間ですが1から書き直した方が不安がありませんし無難ですよ。
④財産は全て漏れの無いように
財産については可能な限り調べあげて遺言書に記載しましょう。記載が漏れた財産については遺産分割協議の対象になってしまいますので、相続トラブルが発生するかもしれません。遺言書の最後に「その他一切の財産は〇〇に相続させる」という文章を入れておくと、記載漏れした分を全て特定の人に相続することができます。
また財産についてはできるだけ具体的に書きましょう。不動産は登記簿の情報を基に書き、株式や有価証券も銘柄や数量について具体的に書いておくべきです。
⑤専門家に相談しよう
公正証書遺言と自筆証書遺言のどちらを選ぶにしろ、専門家に相談することをお勧めします。遺言書の書き方、内容のチェック、予想されるトラブルとその回避方法まで、専門家なら適切なアドバイスすることが可能です。
自筆証書遺言は公正証書遺言と違って何度でも簡単に書き直せます。専門家の意見を聞きつつ、納得いくまで作り直しながら良いものに仕上げていきましょう。
弊所では遺言書の作成から遺言内容の執行まで請け負っております。初回相談は無料で承っておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。誠意お手伝いさせていただきます。
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