相続人の中に行方不明者がいるときの対策

 相続の手続きで最初に行うのは戸籍の収集です。そして集めた戸籍を確認して誰が相続人になるのかを確定しなければなりません。相続人が誰になるのかは以前にお話ししていますので、ぜひ見てみてくださいね。
 相続人が確定し、財産調査が完了したらいよいよ遺産分割協議を行うわけですが、相続人の中に行方不明者がいると困ったことになります。
 遺産分割協議は相続人全員で行われなければならず、一部の相続人を参加させずに行った場合は無効とされてしまいます。疎遠になっている親族がいて連絡も全く取っていない、このような場合であっても相続人である以上は遺産分割協議に参加してもらわなければなりません。
 そこで今回のテーマは行方不明の相続人がいた場合の対策です。

①行方不明者の住所を特定しよう

 行方不明の相続人がいる場合、まずは住所が特定できるか調べてみましょう。手段としては戸籍の附票を取得して住所を確認する方法があります。
 戸籍の附票とは、その戸籍が作られてからの住民票の移り変わりを記録したものです。この附票を確認することで、現在の住所を知ることができます。戸籍の附票はその戸籍の本籍地でなければ取得できませんが、郵送で請求することができます。

◆戸籍を請求できる人は?

 戸籍謄本や附票は直系親族であれば取得可能です。例えば母は子の戸籍を無条件に取得できますし、子は母の戸籍を無条件に取得可能です。ところが、兄弟姉妹の戸籍に関しては事情が変わってきます。兄弟姉妹については他人の戸籍を取得するのと同じ扱いになっています。
 兄弟姉妹については同一の戸籍に記載されていれば取得できますが、婚姻などで戸籍を移っている場合には直系親族か、その兄弟姉妹の配偶者による委任状が必要になります。もし委任状が用意できない場合は、役所に「兄弟姉妹の戸籍を取得する正当な理由」を説明しなければなりません。
 遺産相続に必要なんだから正当な理由になると思えるのですが、相続に必要というだけでは発行してもらえないケースが多数あります。まずは役所で相談し、どんな書類をそろえれば良いのか聞いてみましょう。

◆専門家は職権で請求できます

 戸籍収集の方法としては法律専門職である弁護士、司法書士、行政書士に依頼する方法もあります。これらの法律専門職は、職務上必要となる正当な理由があれば戸籍を請求することができます。当然、戸籍は相続関係の確定に必要ですので、相続人の方1人の委任状があれば兄弟姉妹の戸籍を請求することが可能です。

◆住所が特定できたら連絡を試みよう

 判明した住所に手紙や電話で連絡を試みましょう。相続が発生したことを説明し、遺産分割には全員の協力が必要なことを理解してもらう必要があります。
 もし頑なに協力を拒否された場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。それでも分割が成立しない場合、最終的には裁判官による分割審判で決着となります。

②不在者財産管理人を選出する

 せっかく住所を特定しても、そこに住んでいなくて連絡が取れないこともあります。行方不明のままではいつまでたっても遺産分割協議ができませんので困ってしまいます。この場合、とれる手段は2つです。不在者財産管理人を選出して遺産分割協議に参加してもらうか、失踪宣告する方法です。

 不在者財産管理人とは、行方不明の相続人に代わって財産を管理する人です。行方不明者の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てをして選任してもらいます。
 不在者財産管理人を選任してもらえるのは、行方不明の相続人に全く連絡がつかず、今後も帰ってくる見込みがないような場合です。何年も連絡がつかないようなケースを想定しているので、住所は分かるけど応答してくれないような場合は選任してもらえません。

 不在者財産管理人はあくまで財産管理を行うことが仕事なので、行方不明の相続人の財産に関する目録や収支報告を作成して裁判所に報告する義務はありますが、財産を勝手に使うことはできません。
 不在者財産管理人になれるのは利害関係のない人です。候補者がいない場合は弁護士や司法書士が選任されます。

 選任申し立てに必要な書類は以下のとおりです
 ・不在者財産管理人の選任申立書
 ・行方不明者の戸籍謄本、戸籍附票
 ・財産管理人候補者の住民票または戸籍附票
 ・不在を立証できる資料
 ・財産目録

 親族から不在者財産管理人を選出した場合、裁判所への報告義務を負うなどの負担があります。一方で専門家を選出した場合は月数万円の報酬を支払わなければなりません。
 遺産分割協議が終わったとしても不在者財産管理人の仕事は終わりませんので、選任にあたってはよく検討する必要があります。

③失踪宣告する

 失踪宣告とは、ある人の生死が不明である場合に、一応その人の死亡を擬制する制度のことです。
 失踪宣告には普通失踪特別失踪の2種類がありますが、特別失踪は戦争や船舶で遭難した場合等の特殊な状況下で使われる制度なので、相続で使われることは少ないです。一般的な行方不明の場合は普通失踪となります。

◆普通失踪とは

 行方不明者の生死が7年間明らかでないとき、法律上は死亡したものとみなす制度です。
 不在者財産管理人の選出は、あくまで「いつか帰って来るかも」という前提をとっていますが、失踪宣告は「死亡した」とみなすことになりますので断然重い判断となります。
 普通失踪の申し立ては家庭裁判所に対して行います。当然家庭裁判所も慎重に審理して判断しますので、普通失踪の宣告には1年から1年半の期間がかかると思ってください。

 普通失踪が宣告されると法律上は死亡したものとみなされますので、行方不明の相続人が参加しなくても遺産分割協議を進めることができます。

④行方不明者が現れたら?

◆不在者財産管理人を選出していた場合

 行方不明だった相続人が返ってきたなら、不在者財産管理人が管理していた財産を受け渡します。

◆失踪宣告していた場合

 たとえ失踪者が生きて帰ってきたとしても、それだけで失踪宣告と遺産分割が無効になるわけではありません。失踪宣告が取り消されるまでは有効です。
 失踪宣告の取消がなされた場合、失踪者の相続権は復活することになります。そのため相続人は相続した財産が残っている分については返還して遺産分割協議をやり直す必要があります。

⑤まとめ

◆行方不明の相続人の戸籍を集めよう

◆住所が分かったら連絡を取ろう

◆どうしても連絡がつかないなら不在者財産管理人を選出しよう

◆生死が7年間不明なら失踪宣告を申し立てよう

 行方不明の相続人がいる場合、その所在を確かめるだけでも大きな労力がかかります。時間がとれずに手続きが大変、必要書類が分からない、そんな時は専門家に相談してみましょう。

 弊所では戸籍収集、財産調査、遺産分割協議書の作成、名義変更などを幅広くサポートしております。
 初回相談は無料で承っておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。誠心誠意お手伝いさせていただきます。

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