親や義理の親をずっと介護してきたけど、遺産相続での扱いは?

 平均寿命が延び高齢化社会と言われて久しい日本ですが、必ずしも健康で活動的な高齢者ばかりとはいきません。
 当然そこには介護の問題が発生します。そしてその負担は配偶者、子供、あるいは子供の配偶者が負うケースが多数です。
 令和元年に厚生労働省が取りまとめた介護者の構成が公表されているので見てみましょう。

 やはり配偶者、子、子の配偶者が半数以上を占めていることが分かります。
 長年にわたって介護を担当してきた人にとって、要介護者が亡くなった際に相続分がどうなるのかは大きな関心事ではないでしょうか。
 言い方を変えると、介護報酬を受け取りたいと思うのが人情です。そこで今回は相続における介護寄与分についてお話ししようと思います。

①寄与分と寄与権利者

◆民法904条 寄与分と寄与権利者
 民法は904条において「共同相続人の中に、被相続人の財産の維持又は形成に特別の寄与・貢献をした者」がいる場合、そういった貢献をしていない他の共同相続人と同様に扱うのは公平じゃないよね、と規定しています。
 そのうえで、特別の寄与・貢献をした相続人は法定相続分に寄与に相当する額を加えて財産を取得できるとしています。

 特別の寄与・貢献とされるのは介護に限りませんので、事業を手伝っていた、金銭を贈与した、不動産を管理していた等も寄与とみなされます。

 ここで問題なのが「共同相続人の中に」という文言です。そう、寄与分権利者と認められるには、相続権を持つことが要求されているのです。相続人の定めについては以前にお話ししているので、介護した人が相続人に該当するか分からないときは読んでみてください。

 先ほどのグラフでは「子の配偶者 7.5%」が介護を担当しています。ですが子の配偶者は相続権を持ちません。これでは実際に介護を負担した人に報いることができないですよね。
 そこで2018年に民法が改正され、1050条が新設されました。

◆民法1050条 特別寄与と特別寄与者
 この法改正により、特別寄与者という区分が設けられました。条文が長いですが見てみましょう
「① 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務を提供したことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭の支払いを請求することができる。」

 特別寄与者は相続人である必要がありません。そのため、今までは寄与料の請求ができなかった長男のお嫁さんなども請求する権利を得ることになります。具体的には6親等内の血族、3親等内の姻族が対象となるので、かなり広い範囲がカバーされています。

②寄与分・特別寄与分の請求方法

 上で書いたように、寄与と特別寄与では根拠となる条文が違うので請求方法が異なる点は注意です。

★ 904条に基づく寄与分は遺産分割協議で請求する
★ 1050条に基づく特別寄与は相続人に対して個別に請求する。

 特別寄与者は遺産分割協議に参加する必要はありません。また特別寄与を相続人に請求する場合、相続人が複数いるときはそれぞれの相続割合ごとに請求します。一人の相続人に全額の請求はできません
 請求する場合は時効にも気をつけましょう。遺産分割協議は原則として相続開始時から10年経つと時効になり、寄与分の請求ができなくなります。特別寄与はもっと短くて「相続の開始及び相続人を知った時から6ヶ月を経過したとき、又は相続開始の時から1年を経過」したうえで「相続人が時効を援用する(もう時効だ!と主張する)」と時効になってしまいます。

請求する際の注意点
 まず一次的には当事者同士で協議します。そこで金額の折り合いが付けば支払いとなりますので、特別な手続きが必要だったりはしません。
 問題は折り合いがつかなかった場合です。遺産分割は相続人全員の意見が一致しないと成立しないので、1人でも反対されたら認められません。特別寄与の場合は相続人それぞれに個別で交渉する必要があります
 請求金額の妥当性を主張するには、具体的な証拠を提示して計算方法を明確にしなければなりませんし、どうしても協議がまとまらない場合は家庭裁判所での審判ということになります。
 家庭裁判所に話を持ち込む場合も証拠書類を揃えなければなりません。介護日記や通院記録、介護用品購入に費やした出納帳等が該当します。

③遺言も検討しましょう

 寄与分、特別寄与分について、できれば被相続人が存命なうちに話し合っておきましょう。
 遺言で寄与分を指定することはできませんが、今までの貢献と寄与を踏まえて財産を遺贈するよう遺言することはできます。付言を付けておくとなお良いでしょう。
 また感謝の気持ちを込めて生前贈与であらかじめ財産を渡しておくという手段もあります。

 寄与分、特別寄与分の請求はとてもハードルが高く、裁判で認められるには時間と手間、多数の証拠固めが必要になるので大きな負担です。

 相続にあたって分からない事や不安なことがあった場合は、まずは専門家に相談することをお勧めします。当事務所では遺言書の作成サポートから、相続財産の名義変更までお手伝いしております。まずはお気軽にご相談ください。

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