相続を行う場合、本来は被相続人(亡くなった方)の財産は被相続人のものですので、自由に処分することができます。ですので遺言書で全財産を長男に遺贈するよう指示したり、贈与によって全くの他人に対して相続することも可能です。
しかしそうなってくると、被相続人の財産に依存して生活していた相続人などは生活に困ってしまいます。
そこで民法では相続人の生活の保障のため、あるいは共同相続人間の公平な相続財産の相続を目的として、遺留分という被相続人の意思によっても奪えない相続人の権利を定めています。
というわけで今回のテーマは相続における遺留分です。
①遺留分とは
遺留分とは、法律上で取得することが保証されている相続財産の一定の割合のことです。この遺留分は兄弟姉妹以外の相続人に認められていて、贈与又は遺贈によっても奪うことができません。
兄弟姉妹以外の相続人というのは以下の人々が該当します。
◆子及びその代襲相続人(代襲相続は子がすでに死亡、廃除、又は相続欠格している場合に発生します)
◆直系尊属(被相続人の父母、祖父母など、上の世代を尊属といいます)
◆配偶者
代襲相続については以前にお話ししているので、そちらも見てみてくださいね。
②想定されるケースの一例
被相続人Aには配偶者Bと子C、Dがいたが、相続にあたって遺言書には全くの他人である知人Eへ全ての財産を遺贈する旨の記載があった。
③遺留分の割合
遺留分は被相続人の持つ相続財産全体に対する割合として算出していきます。
①直系尊属のみが相続人である = 被相続人の財産の3分の1
②それ以外の場合(配偶者・子がいる) = 被相続人の財産の2分の1
上の図に示したケースでは「②それ以外の場合」が該当します。そこで実際に被相続人Aが2400万円を遺贈する遺言を行っていた場合、どのような遺留分になるか見ていきましょう。
もし知人Eへの遺贈が無かった場合、配偶者であるBは法定相続分として財産の2分の1にあたる1200万円を相続することになり、子も財産の2分の1である1200万円を相続します。子が複数いる場合は人数で割りますので、子CとDの法定相続分はそれぞれ600万円です。
今回のケースでは、配偶者・子は財産全体の2分の1の遺留分を主張できますので、配偶者Bは600万円、子CとDはそれぞれ300万円の遺留分を受け取る権利があります。かなりの金額を取り返すことができますので、遺留分は決して甘く見ていいものではありません。
④遺留分侵害額請求〈民法1046条〉
実際に相続人が受け取った財産が遺留分を下回っていた場合、相続人は権利を侵害されてしまったことになります。ですので相続人は遺留分を侵害された額を限度として、相当する金銭の支払いを請求することができます。これを遺留分侵害額請求権といいます。
気を付けていただきたいのは、遺留分を無視した遺贈や贈与を行ったとしても、自動的に無効とはならないということです。あくまで遺留分侵害額請求権の対象になるだけなので、遺留分が必要でない相続人は権利を行使しなくてもよいのです。その場合は遺贈、贈与は有効とされます。
また遺留分侵害額請求権は時効によって消滅してしまうため注意が必要です。
◆遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から、1年間行使しなかった
◆相続開始の時から10年が経過してしまった
このような場合は遺留分侵害額請求権が消滅するので請求ができなくなってしまいます。
⑤遺留分侵害額請求のやりかた
遺留分侵害額の請求方法は主に4つのステップがあります。
①相手方と話し合って口頭で請求する
②配達証明のある内容証明郵便で請求
③それでも話がまとまらない場合は裁判所で調停
④最後の手段として訴訟
①の話し合いで解決するのが理想といえます。遺留分侵害額請求は裁判上でなくともその効力を生じますので、話し合いは有効です。この段階で解決できるなら合意書などを作成しておくと安心です。
②の内容証明郵便の発送は郵便局に証拠が残ります。はっきりと遺留分侵害額請求することを明記して改めて協議にのぞみましょう。また内容証明郵便の発送は時効の成立を阻止するという点で有効な手段になります。
③と④まで行ってしまうと弁護士の先生に依頼して対策するしかありません。着手金を支払って調停、裁判のサポートをしてもらいましょう。
⑥まとめ
◆相続人は遺留分の権利を持っている
◆遺贈、贈与で遺留分を侵害された場合は請求可能
◆時効があるので気を付けよう
◆話し合いで解決できないときは裁判になってしまう
遺留分は相続人が持つ正当な権利ですが、請求するとなるとスムーズにいくかは難しいところです。相続が発生して、財産の分配をしてしまった後では対処が大変ですし、裁判となってしまうとコストも時間もかかります。
相続トラブル回避のためにも、事前に専門家に相談して遺留分を念頭に置いた遺言書の作成や贈与を考えていきましょう。
弊所では遺言書の作成から相続の手続きまでお手伝いしております。初回相談は無料で承っておりますので、分からないことや不安なことがありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
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